「施設と在宅、どちらが費用がかかるの?」

介護を経験する前、私もこの問いに対して「数字で比べれば答えが出る」と思っていました。

でも実際に両方を経験してみて、費用の「金額」以上に大きかったのは、お金の管理のしんどさでした。

毎月いくらかかるか分からない。請求がバラバラに届く。制度を使っても、すぐには家計が楽にならない——。

在宅介護では、こうした「見えない負担」が静かに積み重なっていきました。

この記事では、在宅介護と施設介護の両方を経験した立場から、費用そのものだけでなく、月々の管理のしやすさや家族の負担の違いまで含めてお伝えします。

※本記事は以下のような状況の家族の体験をもとにしています

  • 急性心筋梗塞後、低酸素脳症・脳梗塞を発症
  • 要介護4/胃ろう/全介助
  • 失語症あり(わずかに発声あり)

在宅介護が始まった瞬間、お金の考え方が一変した

夫が急性期・回復期の病院に入院していた間は、支払いは医療保険のみでした。

ところが在宅介護が始まった瞬間、状況は一変します。

介護費と医療費が同時に発生し、それぞれの事業所と個別に契約する必要が出てきました。

  • 訪問診療クリニックと契約
  • 訪問看護ステーションと契約
  • 訪問リハビリ事業所と契約
  • デイサービスと契約
  • 福祉用具レンタル事業所と契約

一つひとつは理解できても、全体を見渡すのが難しい。それぞれに担当者がいて、それぞれに書類があって、それぞれに引き落とし日がある。

「これ、全部私が管理するの?」と、退院直後に呆然とした記憶があります。

在宅介護の費用は”積み重なっていく”

在宅介護では、ひとつのサービスで生活が完結することはありません。必要に応じてサービスを組み合わせていくため、費用も分散していきます。

請求はバラバラに届き、引き落とし日も統一されていません。しかも利用内容によって金額が変わるため、毎月同じ額になることもほとんどありませんでした。

わが家の在宅介護時の主な費用項目:

項目保険区分備考
訪問診療医療保険月2回程度
訪問看護医療保険/介護保険状態により変動
訪問リハビリ介護保険週複数回
デイサービス介護保険週複数回
福祉用具レンタル介護保険毎月定額
薬代医療保険毎月変動
おむつ代実費月15,000〜20,000円程度

何にいくらかかっているのか。それを把握するだけで、かなりの時間と労力を使っていたのが正直なところです。

今月いくら必要か分からない、という不安

在宅介護を始めたばかりの頃、いちばん大きかったのは「金額の高さ」ではなく、見通しが立たないことへの不安でした。

今月はいくらかかるのか。来月は増えるのか、それとも減るのか。その答えが、どこにもありませんでした。

退院直後の最初の2週間は、主治医から**特別訪問看護指示書(特指示)**が出ており、医療保険での訪問看護が中心になります。状態が不安定な時期は1日に複数回の訪問が入ることもあり、「これがいつまで続くのか」「費用はどれくらいになるのか」が読めません。

この特指示は原則14日間。つまり、1か月目と2か月目で条件がまったく変わる可能性があるということです。

さらに、体調によってサービス内容が変わると、そのまま費用にも直結します。

  • 発熱で往診が入る
  • 吸引やケアが増える
  • デイサービスが中止になる
  • 訪問看護の回数が増える

「先月と同じくらいだろう」という予測は、ほとんど通用しませんでした。

医療保険と介護保険を併用していても、介護保険の点数が足りなくなることもあります。その場合、「実費で追加するかどうか」をケアマネジャーと相談する場面もありました。

必要なケアは分かっている。でも、それをどこまで利用するかは、家計とのバランスで判断しなければならない。

この判断の連続が、精神的にも大きな負担でした。

高額療養費制度と、現実のタイムラグ

医療費については、高額療養費制度を利用することで、最終的な負担は軽減されます。

ただ、実際に体験してみて感じたのは、「制度があること」と「家計が回ること」は別問題だということでした。

当時は協会けんぽに加入していたため、高額療養費は自分で申請が必要でした。

  • 領収書を毎月保管する
  • 対象になる医療費を計算する
  • 申請書を作成して郵送する

この作業だけでも、慣れるまではかなり大変です。介護や育児と並行してやることを考えると、「また書類か」と気力が削られる感覚が何度もありました。

そして何より大きかったのが、入金までの時間差です。

高額療養費の払い戻しは、通常「診療月から3〜5か月後」が目安になります。

つまり——いったん全額近くを支払い続ける期間があるということです。

後から戻ってくると分かっていても、その間の支払いは毎月発生します。訪問診療・訪問看護・訪問リハビリ・薬代——それらが積み重なり、一時的な資金負担は決して軽くありませんでした。

実際、資金繰りが追いつかず、毎月の支払いに苦労した時期もあります。

また、高額療養費を申請したかどうかも、長期間になると分からなくなります。私の場合は、協会けんぽに問い合わせて支払い済み一覧を送っていただき、ようやく整理できました。

制度としては本当にありがたいものです。ただし、「使いこなすには体力がいる」というのが正直な感想でした。

✅ 領収書は必ず月別に保管する
✅ 申請したかどうか不安なときは保険者に問い合わせればOK
✅ 払い戻しまでの期間、手元資金に余裕を持っておくと安心

費用だけではない、日常の負担の大きさ

在宅介護の大変さは、費用だけではありません。むしろ、日常の細かな負担の積み重ねが大きかったと感じています。

担当者会議の大変さ

ケアマネジャーを中心に、医師・看護師・介護士・リハビリ職・デイサービス・福祉用具担当者・薬剤師など——気がつけば、10人以上が自宅に集まることもありました。

日程調整だけでも一苦労です。全員の予定が合う日を探すだけで、何度もやりとりが必要になります。さらに自宅での開催のため、駐車スペースの確保も必要でした。

会議の時間そのものよりも、その前後の準備で疲れてしまうことが何度もありました。

予定外の帰宅

デイサービス利用中に、体調不良で早めに帰宅となった日がありました。そのとき私は仕事の都合で家にいない時間帯と重なってしまい、スタッフの方に玄関先で待っていてもらうことになりました。

炎天下の中、申し訳なさと焦りでいっぱいでした。

訪問看護やデイサービスを利用していても、早朝・夜間・緊急時の対応は家族が担う場面が多いのが現実です。

常に「次の対応」を考えている状態

在宅介護中は、頭の中のどこかで常に夫のことを考えていました。

今日の体調はどうか。次の訪問は何曜日か。今月の請求はいくらになるか。デイサービスの持ち物は足りているか——。

意識していなくても、頭の片隅に常に「次の対応」がある状態でした。この「常に気を張っている感覚」が、じわじわと体力を削っていきました。

施設介護で感じた「整理された安心感」

施設での生活に変わると、状況は大きく変わりました。

まず感じたのは、費用の分かりやすさです。

請求は主に以下にまとまります。

  • 施設利用料(毎月ほぼ定額)
  • 訪問診療
  • おむつ代

在宅時のように、複数の事業所からバラバラに請求が来ることはありません。「今月はいくらくらい必要か」が見えるようになりました。

在宅介護と施設介護の費用管理の違い:

項目在宅介護施設介護
月々の費用変動が大きいほぼ定額
請求先の数複数(5〜7か所以上)主に1〜2か所
費用の予測難しい立てやすい
管理の手間大きい少ない
緊急時の対応家族が担う場面が多い施設スタッフが対応

この「見える化」は、想像以上に安心感につながります。

生活面の変化も大きかったです。

日常の介助やスケジュール管理は、施設内で完結します。これまで家族が担っていた調整や対応の多くが不要になりました。

常に気を張っていた状態から解放されたことで、時間的な余裕だけでなく、精神的な余裕が生まれたことがいちばん大きな変化でした。

まとめ|続けられる形を選ぶという視点

在宅介護と施設介護の違いは、単純な費用の比較では語れません。

在宅介護は、生活の自由度が高い一方で、費用管理や日常の対応を家族が担う必要があります。そしてその負担は、数字として見えるものだけでなく、見えにくいストレスや時間の消耗として積み重なっていきます。

施設介護は費用が一定かかるものの、管理が整理されており、生活全体の見通しが立てやすくなります。

どちらが正解ということではなく、大切なのは「無理なく続けられるかどうか」だと感じました。

介護は長く続くものです。だからこそ、その時の状況だけでなく、数か月後・1年後も見据えた選択が必要になります。

この記事が、これから介護の形を考える方にとって、少しでも現実的な判断のヒントになれば嬉しいです。


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